Design Development & Talk
部内勉強会
デザインセンターで坐禅体験会を開催。「何も考えないこと」から生まれるインスピレーションとは
普段得られない知見やインスピレーションの機会
2023年8月に行われた「坐禅体験会」は、臨済宗大徳寺派の僧侶・岩山知実さんと同派の原 宗久さんを招いて行われました。禅の世界について学び、体験するものとして開かれたこの「体験会」では、参加者らが禅宗についてのレクチャーを受けた後、実際に坐禅を組み、禅の世界の一端を体験しました。
レクチャーした岩山さん(写真右)はドイツ人と日本人の両親を持ち、「レオ」さんの愛称で普段は「Flyingmonk(空飛ぶ僧侶)」と銘打った活動を原さんと共に行っています。
この坐禅体験会に企画から携わり、普段の業務ではコンシューマー製品のプロダクトデザインを担当している今村 響さんは、「新しいCLAYスタジオがオープンしてから初のDDTということで、メンバーの心機一転につながるイベントを企画したいという話になり、具体的なアイデアとして坐禅体験会が挙がりました。前回のDDT企画時に『事前にDDT委員が登壇予定者に密着取材とリサーチを行うスタイル』を取ったところ、非常に好評だったため、今回もまずは私たち委員が事前に小田原のお寺で坐禅会に参加しました」と話します。
また、この日の参加者の一人で医療機器のUIデザインに携わる黒田 菫(すみれ)さんは、DDTについて「普段の業務や生活では得られない知見やインスピレーションを受けることができる機会なので、積極的に参加するようにしています」と、体験会に参加した理由を話します。
「何も考えないこと」は難しい
坐禅会は「レオ」の愛称を持つ岩山さんによる講義から始まりました。講義の冒頭、坐禅の歴史についてふれたレオさんは、「仏教が始まる以前、5,000年前のインダス文明でも坐禅や瞑想のような行為が行われていたことが洞穴の彫刻からわかっています」と話し、坐禅の目的について説明。瞑想は、科学的には脳内で幸福ホルモンと呼ばれる「セロトニン」が発生することがわかっている一方で、姿勢を整え、意識をお腹に集中することは「心を整えること」につながり、そこから心と体を一つにすることができるとして、「坐禅によって自分を見失わないようにすることができます」などと解説しました。
今村さんと黒田さんは、坐禅を本格的に体験するのは初めてと声を揃えます。「なんとなくハードルが高そうな印象でした」と話す今村さん(写真右端)の言葉に、黒田さん(同中央)は「『わびさび』などの言葉のイメージから、質素でありながら豊かな心をもつための教えを説いている、ストイックでハードルが高い宗教、というイメージでした」と同意します。
座禅体験に取り組む今村 響さん(写真右端)と黒田 菫(同中央)、二人とともに体験会を企画した小杉山岳土さん(同左端)。
姿勢や呼吸法、意識の持ち方などについての説明に続いて、実践。拍子木と鉦の音を合図に、まずは10分間の坐禅に取り組みます。坐禅を組んでいる間も、レオさんの「肩の上に背負っているものはすべて下ろして」「ただゆっくりと息を吐いていきます」といった説明を聞きながら、参加者全員で「何も考えない」ことに挑戦します。
黒田さんは「はじめは、薄く開けた目から入ってくる視覚情報や聞こえてくる音に気を取られたり、足がしびれて痛かったりして、『何も考えない』こと自体が難しいということに気づきました」と振り返ります。今村さんも「とても心地よく、気持ちが良い感覚でした。日頃は常に外からの情報が入って来ているので、なんだか頭の中が脱力した感じが好きでした」と語ります。
「すごく贅沢な時間」
10分間の坐禅の後、質疑応答。続いて再度15分間の坐禅を行います。今回は希望する人には「警策(けいさく)」と呼ばれる板状の棒で背中を打つ「行(ぎょう)」を実施。これは「身心一如」と呼ばれる、集中した状態を取り戻すためであることをレオさんらが説明しました。
多くの参加者が「あっという間だった」と話す一方で、黒田さんは「すごく贅沢な時間だった」と振り返ります。「10〜20分であったとしても、『何もしない』『何も考えない』時間をとったことがないことに気づきました。坐禅の後は頭がクリアになったと同時に、すごく贅沢な時間を過ごした感覚を持ちました」。
今村さんも同様に「頭がすっきりして疲れが少しとれた感じでした」と語ります。「目を開けたとき、映像や音など、久しぶりに入ってきた周囲からの情報がとても新鮮に感じました」と驚きを持って振り返りました。
体験会では最後に再び講義の時間が設けられ、レオさんが「水と泥が入ったガラス瓶を動かすと、水は濁ります。でも、静かにとどまらせると泥は沈んで水は透き通ります。心を『とどまらせておく』ために行うのが坐禅なのです」「朝起きたらまず寝床の上で1分だけ静かに座ってみましょう」などと話しました。
また、黒田さんは、レオさんらの言葉の中で「忙しい毎日の中で、つい先のことばかり気になって、今に集中できていないのではないか」「例えばご飯を食べているとしたら、食べ終わった後の仕事のことを考えるのではなく、食べているご飯のことだけに集中してみましょう」という言葉が印象に残ったと語ります。「普段仕事に追われていると次にやることばかり考えてしまい、今自分がやっていることやその時間に集中できていないのではと気づかされました」。
一方、「本当に目の前のことに集中しきれているか?」というレオさんの問いかけに「かなりドキッとした」と話す今村さん。「普段デザイン業務などに取り組んでいると、常に納期やスケジュールに追われているため、『今取り組んでいる作業が終わったら、次はどうするか』ということがどうしても頭を離れません。その影響からか休日になっても、今していることになかなか集中しきれず、仕事のことや生活でのやるべきことが浮かんできてしまうことがありました。『雑念を排除し、目の前の物事に最大限集中する』という禅宗の考え方が、特に印象に残りました」と振り返りました。
心をリセットし自己を客観的に捉える
禅宗の教えは現在では欧米にも広がり、実践する人はもとより、社員に体験機会を提供する会社なども世界的に増えています。二人は坐禅体験会を通して、禅のイメージが大きく変わったと二人は口を揃えます。
「以前は宗教的なイメージが強かったのですが、生きていくうえでの知恵を与えてくれる『学問』としての面もあるのだなと認識を改めました」(今村)。「仏教の教えを実践することは、自分にとってハードルが高い印象でしたが、体験してみると意外と身近で、いつでもどこでもできるものなんだと思いました」(黒田)。
また、禅に対するイメージの変化とともに、自分自身の課題に対する姿勢にも変化があったと二人は語ります。環境への慣れから、不満を口にしがちだったと語る黒田さんは「座禅を行うことで、意識が一旦リセットされる感覚があり、自分の置かれている環境の良い面をあらためて思い出すことにつながると感じました」。
一方、自分自身のデザインに対して、他人のデザインを見るときよりも「視野が狭くなりがち」で「細かいエラーに気が付きにくいことがある」と考えている今村さん。「今回の体験をきっかけに、業務の中で意図的に頭の中をリセットするような習慣を作っていければと考えています。長時間の作業の中でも視野が狭くならないよう、自分自身の脳をうまくコントロールできるようになっていきたい」と語りました。
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