デザインセンターの勉強会「Design Development & Talk」(DDT)を開催、洞窟探検の吉田勝次さんに講演いただきました。吉田さんは洞窟探検の第一人者として、2025年に第29回「植村直己冒険賞」を受賞するなど、人類未踏の場所を求めて挑戦を続けています。この日は、世界各地の洞窟探検の一端を動画や画像とともに紹介し、極限の状態での心構えなどについても語りました。
デザインセンターで行われた講演の様子。吉田さんは「冒険」と「探検」の違いを語りつつ、未知の領域を歩み続ける理由について、軽妙な語り口で話した。
「冒険」と「探検」の違い
吉田さんは講演の冒頭に自身が行うのは「探検」であると述べ、「冒険とは目的地を決めて行うもの。目的地に到達できるか否かが重要になりますが、探検の定義はもう少し曖昧で、『未知』の要素を調べて持ち帰り、広く発表することまでを含むと僕は考えています」として、その行程などについて現地で撮影した写真や映像を交えて解説しました。
誰も行ったことのない場所を常に探し求めているという吉田さんは、「インターネットに情報があるということは、すでに人間が行ったことがあるということ。そういう場所ではなく、地図にも乗っていない洞窟への入口を探すことから始めます」と述べ、地下に広がる未踏の洞窟を探すために、時には1週間以上かけて日本や世界の森を歩き回ると説明。「基本的にテントは張りません。疲れたらその場で寝る。岩の上に直接寝ることもよくあります」「洞窟の入口は、その洞窟が唯一外界と接する場所でもあるために埋まりやすく、人が入れるギリギリの大きさであることも珍しくありません」などと話し、上下23センチ、幅45センチが自身の入れるギリギリのサイズだとして、「よく勘違いされるのですが、狭い場所が好きなわけではありません。ただ未知の場所に行きたいだけなのです」「体をねじ込むために、着ているつなぎを脱いで入ることもあり、一度は乳首が取れたかと思うこともありました」と、笑いを交えて話しました。
洞窟の中、岩の上に身を横たえながら仮眠を取る様子。「基本的に、洞窟内ではテントは張りません。その場で眠ります」
石灰岩がつくる地底の世界
地下に広がる洞窟は多くの場合、石灰岩でできており、雨水が炭酸カルシウムを溶かすことで長い年月をかけて徐々に空間が広がっていくそう。一方、飽和状態になった水はそれ以上石灰岩を溶かすことができないため、大きな洞窟があるということは、必ず水の「流れ」があると吉田さんは言います。洞窟の水中をボートや潜水具を使って進むこともある中で、地上からの雨による急な増水に遭遇したこともあるそうです。他にも深さ数百メートルの穴の横で仮眠中に落ちかけたこともあるなど、「命の危険は探検のたびに感じている」とのこと。「洞窟探検(に必要なもの)は体力よりもメンタルです」と断言します。
特に「ああ、ここで死ぬのかと思ったことがある」と打ち明けた状況は次のようなものだったといいます。水中を進んでいた際、人が一人通れるほどの狭い通路で前に進めなくなり、引き返そうとしても酸素ボンベが引っかかって戻れなくなったそう。どちらにも進むことができず、心拍数が上がっていく中、「パニックになるな」と自分に言い聞かせ、濁りで視界が奪われていたために水中ライトも消して、目を閉じ、すべての動作をゆっくり行い、「やれることを一つずつやろう」と自らに言い聞かせたそうです。引き返すことは諦め、なんとか前に進んでいくと、水面のさざなみが見え、脱出できたといいます。「ただし、帰りは同じ水中の道を戻らなければならない。それは本当に怖いと感じました」「よく『メンタルを鍛える』といいますが、僕は経験を重ねていくことでしか鍛えられないと思う。実戦での経験がミルフィーユのように積み重なり、少しずつメンタルが鍛えられていく」と語る言葉には、いくつもの危険をくぐり抜けてきた重みがありました。
無数の鍾乳石が垂れ下がる幻想的な空間。ライトに照らされた光景は、自然が長い年月をかけて作った彫刻のよう。「洞窟写真家」として写真集を上梓している吉田さんは、多くの機材を持ち込むことができないため、最小限の照明機材で構図を考える難しさなどについても詳しく話した。
洞窟写真家としての活動も
また、洞窟写真家としても活動している吉田さんは、これまでの活動で撮影したものを集めた写真集も出版。「せっかく訪れた場所をきれいに撮影しておきたいと思ったことが、写真を始めたきっかけ」と述べる一方、「きれいな場所にたどり着けることは少ない。そんな場所が見つかるのはご褒美のようなものです」として、洞窟の大きさや美しさが最も伝わるように撮影するための技術や工夫を紹介。「作り込みができないため、その場限りのアートのようなもの」「構図にあえて人を配置することで、洞窟の空間の大きさが伝わりやすいようにしています。常に赤いつなぎと黄色のバックパックを持っているのも、撮影した時に洞窟内の空間が映えるように意図的に選んでいる」と、実際に撮影した美しい写真や映像を交えて話しました。
当日は自身のYouTubeで公開している映像などもスクリーンに映し出された。笑いを交えつつ語る吉田さん。
続いて、栄養の少ない洞窟内で生態系に影響を与えないよう排泄物もすべて持ち帰るようにしていること、さらには地下空間の生き物たちについても解説。オオウナギや手のひらより大きなクモ、南西諸島に生息するサソリモドキ、鍾乳石を登るエビなど、意外な生物を紹介する中で、「地下の生き物というと、巨大な生物を想像する人が多いのですが、実際にはその逆で、地下空間では栄養が限られる環境ゆえに生物は基本的に小さい」。また、光の届かない環境に適応した生き物は目が退化し、外殻も薄くなります。吉田さんは自分は学者ではないと前置きしつつも、「おそらく新種と思われる生き物もたくさん見てきたと思う。それは、洞窟は完全に外界と遮断された空間なので、隣の洞窟であっても、何万年と経てばそれぞれの洞窟で独自の生態系が作られていくからだと思う。温度が1度違うだけでも、時間の長さが生き物の進化にも大きな影響を与えると思う」と説明しました。
好奇心を持ち挑戦を続ける
これまで常に人類未踏の場所を探し求めてきた吉田さん。洞窟を探検する理由について、「必ずしも洞窟である必要はないけれど、地球上で人類が“未踏達”の場所は洞窟か海底しかない。自分の身ひとつで行ける場所で言えば、洞窟しかないのです」としたうえで、「実は月にも洞窟があることがわかっている。写真では直径300メートルの洞窟があることがわかっており、いつか行ってみたい」と夢を語りました。
また、探検をする上でのマインドとして大事なのは「頼れる自分を作ること」。極限の状態に置かれたときに人頼み、神頼みになるのではなく、頼もしく強い自分を作っていくことが大切だと語りました。命の危険と隣り合わせの洞窟探検。ユーモアを交えて語る吉田さんの体験談は、好奇心を持って挑戦を続けることの魅力と「自己鍛錬の重要性」を強く印象づけるものとなりました。
講演後、探検に用いる実際の装備や写真集を囲んで談笑する参加者たち。未知の世界への興味を誘われた人も多かったよう。