DESIGNART TOKYO 2024で「富士をあじわう旅」を提案
CLAYスタジオに現れた“富士”が鑑賞者をいざなう先は
CLAYスタジオのツアーを「旅」に見立てて
毎年秋に開催されるデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」。富士フイルムは今年、CLAYスタジオを会場に「富士をあじわう旅」をテーマにした展示を10月26、27の両日で行いました。
会場では、館内を「旅」するスタンプラリーのほか、スタジオ地下の空間に巨大な“浮き富士”のプロジェクションマッピングが行われた一方、先ごろ新たに発売を開始したオリジナル日本酒「富士王」の1合缶「FUJIOH缶」がおみやげとして振る舞われ、訪れた多くの人たちは、さまざまなかたちで社名の由来ともなった“富士”を楽しんでいました。
富士フイルムは今年、CLAYスタジオを会場に「富士をあじわう旅」をテーマにした展示を行った。
富士フイルムがなぜ日本酒を?
「DESIGNART TOKYO」は、東京を舞台にデザインとアート、さらにはインテリアやファッションなど、多彩な分野におけるプレゼンテーションを都内各地で広く開催する日本最大級のデザイン&アートフェスティバル。デザインとアートを横断し感動を与えるモノやコトを「DESIGNART」と定義し、期間中は毎年多彩な展示が都内各所で行われます。
おみやげとして富士王の1合缶「FUJIOH缶」と、デザイナーたちが厳選した「おつまみ」が配られた。メインビジュアルとなる富士山は、グラフィックデザインを主な業務とする河西さんらが中心となってデザインしたもの。「富士山を車窓越しに眺めたときの雰囲気を大切にしました」。(河西)
このフェスティバルに合わせて例年さまざまなプロジェクトや展示を企画・実施している富士フイルム デザインセンターでは、今年、CLAYスタジオを舞台に「富士をあじわう旅」をテーマとした展示を行いました。これは、富士フイルムのフィルム工場敷地内から湧き出る良質な湧水を仕込み水にしたオリジナル日本酒「富士王」の1合缶「FUJIOH缶」が発売されたことを発信するもので、参加者はCLAYスタジオの各所に設けられたスタンプを集めながら、日本酒づくりの背景やさまざまな表情の“富士”を楽しむことができるものです。
粒子感の残るグラデーションで描かれたメインビジュアルは、葛飾北斎が手掛けたような版画的な印象を与える。点群データをもとに映像化した「浮き富士」のプロジェクションマッピングは、このグラフィックに触発されてデザインされたものだという。
スタジオ地下のホールに出現した、巨大な“浮き富士”のプロジェクションマッピング。
展示プロジェクトのメンバーの一人、河西未来さん(グラフィックデザイングループ・チーフデザイナー)は、今回のコンセプトについて「今年から東京駅での発売も始まった1合缶の『FUJIOH缶』には、旅の途中で車窓を見ながら『富士王』を味わってもらいたいという思いが込められています。そのため、今年のDESIGNARTでは『旅』をテーマとした展示として実際に富士王を味わってもらうことで、富士王の魅力だけでなく、製品やサービス以外も楽しみながら本気でデザインするCLAYのもう一つの顔を知ってもらいたいと考えました」と説明します。
福原聖人さん(ユーザーインターフェースデザイングループ・チーフデザイナー/写真左)と河西未来さん(グラフィックデザイングループ・チーフデザイナー)。
富士フイルムが手がける日本酒「富士王」
富士フイルムは、創業間もない時代に写真感光材料を製造するために欠かせない良質な水ときれいな空気を求め、神奈川県西部の足柄に写真フィルム工場を設立。地元の人々から「浮気(ふけ)湧水」と呼ばれる湧水が工場の敷地内に大量に湧き出る環境を整備し、多くの製品を生み出してきました。フィルムの生産が少なくなった現在も1日3万トン近く湧き続けるこの地下水を有効に活用しようと、2017年に始まったのがオリジナル日本酒「富士王」のプロジェクトです。
地元の酒蔵で1865年創業の老舗・瀬戸酒造との共同で開発・製造された純米吟醸酒「富士王」は、酵母にアジサイ花酵母を、酒米に地元産の「山田錦」(試作段階では「若水」)のみを用い、瀬戸酒造の職人技とも相まって華やかですっきりとした味わいが特徴。
限定的に生産され、これまで広く流通していなかったこのお酒を、より多くの人が楽しめるよう、今年8月には初めて1合缶としてパッケージデザインも新たになった「FUJIOH缶」の販売がスタート。東京駅などでの販売が始まりました。
富士王のプロジェクトの経緯と富士フイルムの歴史について、順を追って解説する展示も。
富士山の3Dデータをジェネラティブアートに
この「FUJIOH缶」に主眼が置かれた今回の展示では、CLAYスタジオ入り口で「FUJIOH缶」とスタンプの台紙にもなっているリーフレットなどを受け取った来場者が、「みおろす」「ながめる」「あじわう」など、「富士」を楽しむ5つのキーワードをスタンプで集めながら館内を進みます。「たずねる」では、富士フイルムと富士王の歴史を映像などで学ぶエリアも設けられました。
「今回の展示では『富士フイルムらしさ』『富士王らしさ』『富士山らしさ』の3つの『富士』を感じてもらうことをテーマの中心に据えました」と語るのは、このプロジェクトで浮き富士の映像制作ディレクションを担当した福原聖人さん(ユーザーインターフェースデザイングループ・チーフデザイナー)。
「CLAYスタジオの中を進むツアーを旅に見立てて、その終着点を地下ホールとしました。富士をあじわう旅の終着点にふさわしいコンテンツは何かと考えて用意したのが『浮き富士』です」(福原さん)。
今回の展示における最大の仕掛けは、地下スタジオの上部空間に浮かぶ巨大な富士山のプロジェクションマッピング。なだらかな山裾を再現した白い円錐形のスクリーンには、山を取り囲むように四方に設置されたプロジェクターが常時映像を映し出します。
「映像は、実際に富士山周辺をフィールドワークして見つけた溶岩や倒木、コケやキノコなど、『富士を感じるオブジェクト』をスマートフォンを使ってその場で3Dスキャンして点群データ化し、そのデータをもとにジェネラティブアートとして表現しました」と福原さんは説明します。
映像・システム制作には、映像エンジニアである鈴木由信氏が協力。収集したオブジェクトのデータを、国土交通省がオープンデータ化している富士山の3Dスキャンデータと統合し、風や水などの自然事象をデジタル表現する際に使われるアルゴリズムに取り込ませて出力させた映像表現だといいます。そのようにして生み出され映し出された点群の動きは、時に富士山の山裾をそよぐ風のようにゆるやかな一方、時に冬の山頂のように激しく動くなど、人間が創造したものともコンピューターが機械的に生み出したものともつかない、新たな「富士」の様相をダイナミックかつ美しく描き出していました。
「まるで“大人の学祭”のよう」
「FUJIOH缶」に付属するおちょこも富士山の形を模したオリジナル品。富士王のあじわいにマッチするおつまみもプロジェクトにかかわるスタッフが選定し、包み紙も特別にデザインして誂えるなど、徹底的なこだわりが随所に見られる「富士をあじわう旅」。普段は異なる分野で働くメンバーが集まり、それぞれの得意分野を生かして一つのイベントを楽しく作り上げていく様子を、福原さんは「仕事ではあるけれども、まるで“大人の学祭”のようだった」と笑顔で振り返ります。
「おもしろそうなこと」に全力で取り組みながら、美しいデザインや新しいアート表現に挑戦しようとするデザイナーたちの姿は、酒米が醸(かも)されている樽の中を覗き込むような、ワクワク感と可能性を感じさせる光景でもありました。
CLAYスタジオでは、富士王のこれまでのボトルデザインも一堂に会して展示された。