デザイン開発を担当されたコンパクトミラーレスカメラ「X-M5」について教えて下さい。
会田Xシリーズは「持つ喜び、操作する楽しみ」をテーマに、軽量性と高画質のベストバランスを追求した富士フイルムのデジタルカメラシリーズで、カメラ本来の機能美と最新技術が融合したデザインは発売開始より多くの方に親しんでもらっています。
プロダクトデザイナーとして、商品企画の段階から関わらせてもらった「X-M5」は、Xシリーズの中でも、比較的購入しやすい価格を目指した新カテゴリーのモデルです。普及価格帯とはいえ、クラシカルな雰囲気を大切に、Xシリーズとしての上質さを備えたデザインを心がけました。当社現行のレンズ交換式カメラでは最も軽いボディに、高性能な静止画に加えて動画・Vlog機能を詰め込んでいます。
「X-M5」は富士フイルムのXシリーズの中でも初のVlog撮影にフォーカスしたカメラですが、開発はどのように進めたのでしょうか。
会田まず初めに「XシリーズでコンパクトなVlog機を作ろう」というテーマがありました。そのテーマに沿ってラフスケッチからデザインを起こしていったのですが、Vlogカメラ市場ではすでに大きなシェアを持つライバル製品がたくさん存在するので、その中でどう「富士フイルムらしさ」を持たせ、差別化するかが一番の課題でした。
そこで、ラフスケッチでの検討を重ねた末、自分たちの意思を明確にするために2種類のデザインを描いたんです。一つは、「競合製品を意識したVlogカメラっぽいデザイン」。もう一つは「Xシリーズらしい、クラシカルな佇まいを持ったVlogカメラのデザイン」でした。この2枚のスケッチを並べてみたとき、自分たちがどちらのデザインを進めていくべきかは、自ずと分かった気がしました。「やっぱり富士フイルムはこっちでしょう」と。
同時に、気軽に写真やVlogを楽しみたいと考えるユーザーが、首からさげて出かけたくなるようなカメラにしようという方向性を企画部門と相談して定めました。「Xシリーズらしさ」はしっかり盛り込みながらも、今までのXシリーズにはないスタイルを目指して、新たな解釈で自由にデザインさせてもらったように思います。もちろん、歴代Xシリーズのデザインや、クラシックカメラのエッセンスもたくさん研究しました。
「従来からのXシリーズファンも多い中で、クラシカルなデザインを守りつつ新しい機能やデザインを取り入れることは非常に難しいのではないでしょうか。
会田確かに非常に難しいところではありました。ただ今回は、Xシリーズの裾野を広げるような新しいカテゴリーのカメラであり、偶然にも私自身が、ターゲットユーザーにぴったり当てはまっていたので、かつてXシリーズのファンだったころの気持ちを思い出しながら、ユーザー目線で機能やデザインを考えることができました。大変ではありましたが、最適なかたちに仕上げることができたと思います。
特にこだわったところは。
会田すべてにこだわりを持ってデザインしたのですが、中でも軍艦部は新しいスタイルを求めて、丁寧に検討を重ねた部分です。軍艦の左右を一段下げ、そこに2つの操作ダイヤルを配置しているのですが、ダイヤルの半分が中央のボリュームに埋め込まれた形状にデザインしています。シンメトリーでアイコニックな造形かつ、小さなボディに機能が詰め込まれた凝縮感を感じさせるデザインで、軽量・コンパクト・多機能という、新カテゴリー機の特性を象徴しました。
また、ダイヤルは、樹脂とアルミ天板を組み合わせて作ったり、シルバーの塗装色は、金属感の高い塗料を新たに開発したりと工夫し、価格を抑えながらも、Xシリーズとしての上質さを損なわないよう、細部の質感にもこだわっています。初めてXシリーズを手にする方も、富士フイルムのカメラを長く愛用してくださっている方にも「持つ喜び、操作する楽しみ」を感じてもらえるデザインになったと考えています。
私自身、父の影響で昔から写真が好きで、「X-M5」は発売後に自分で購入して、いまでは“愛機”として持ち歩いています。フラッシュをアタッチメントで付けて「写ルンです」っぽい質感で撮影するのにはまっています。
デザイナーとして大きなプロジェクトを経験し、今後どのようなことに挑戦していきたいと考えていますか。
会田そうですね、これまでは業務をいかにスムーズに進めるかというところをよく考えていたように思うんです。チームの円滑なコミュニケーションなども含め、開発プロジェクトをうまく着地させることが重要だと考えてきました。
もちろんそれも大事なのですが、あえて自分の課題を挙げるとすれば、やはり原点に立ち返って「良いデザインをアウトプットする」ことが必要なのではと感じます。日々の仕事の中で中途半端なものを出したことはありませんが、それでも、自分の中である程度「納得」できたものを、上司に見せ、そこで「いいね」というリアクションをもらって、次のステップへと進めるということができるようになった中で、あえてもう一回そこで自分自身を問い正してみたいなと思っています。
自分が時間をかけて考えてきたものを、自分で一旦白紙に戻して考え直すことは誰だって嫌だと思います。でも、そのデザインに本当にブラッシュアップする余地はないかと考え直す「精神的なコスト」を怖がらずに、自分で自分のおしりを叩いてクオリティを上げていくことが大事なのではと感じます。それができるようになることが、次の自分の挑戦かなと思います。
富士フイルムデザインセンターはどんな職場ですか。デザインに関心のある学生さんにメッセージをお願いします。
会田特にデザインセンターには経験豊富なデザイナーもたくさんいますが、一方で若手ならではの視点もとても大切にされる職場だと私は思います。「私はこういうデザインが好き」という、それぞれのセンスを生かせる会社だと感じますし、そうした「デザイン愛」を存分に発揮しに来てもらいたいなと思います。
- Text by Tomoro Ando
- Photo by Sayuki Inoue